【女帝 小池百合子】何もないという強さ【石井妙子】

読書

私が物心ついたときには、彼女は既に政治家としてそこに立っていた。
まるで日本の女性代表のような顔をして。白いスーツが印象的だった。

そして私が社会人になる頃、彼女は日本で初めての女性都知事に就任した。
彼女の名前を、小池百合子という。

本書では、現東京都知事”小池百合子”が今の地位に至るまでに生じた矛盾を、徹底的に検証・取材している。資料はエジプト・カイロ時代の関係者の証言から過去のインタビューまで、膨大な数である。しかしどれだけ小さな矛盾であっても、著者は見逃さない。
そこには、”小池百合子”への強い執着を感じた。

社会的な地位の高い人にすり寄っていくイメージがありますが、最後はそういう人を足蹴にする。お父さんのことが影響しているのか、成功した男性を貶めたいという心理もあるように見える。

嘘と矛盾をばらまきながら、時代の権力者たちの懐に入る。不要になった者はすぐさま切り捨てる。
それが彼女のやり方だ。
しかし、権力の多様性がなく、男性社会のこの時代。
彼女を完全な悪として責めることは私には出来ない。

そこまで言うと、西村は急に「あの笑顔は大変やな」と呟いた。「眼が笑ってない」という。「孤独の深さが伝わってくる。いつも表情を作ってる。人にどう思われるか、人にどう思わせるかを考えているんか」

読み進めていくと、どうしようもない虚無感が私を襲った。彼女の人間性や感情が、一切見えてこないからである。
しかし私の抱いた虚無感は、猪口議員に放った彼女の一言で確信に変わった。

「荷物を抱えた小池さんと、ばったり出くわしたんです。私が何か言おうとしたら小池さんが私を制するように、ひとこと、こう言ったんです。『失うものは何もないのよ』って。あれは私に対してではなく彼女が、自分自身に向けて言った言葉だったのかもしれない」

なんとなく、この言葉は彼女の本心なのだと思う。失うものは何もない、彼女もまた、自分自身に虚無感を感じていたのだろうか。
そして「権力と寝る女」が、圧倒的な権力を手にしたとき、何を思うのか。
幸福か、孤独か。それとも、それ以外か。

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